14「再会」

虚構
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2012年12月「再会」

2012年の年末、中学校のメンバーで小規模な同窓会的飲み会が開かれることになり、カオルに誘われ僕も参加することとなった。場所は大通り沿いの居酒屋で、店内は例年通り頭の悪そうな大学生やら専門学生やらでごった返していた。

N市のように小さく閉鎖された街では出かけ先で知人と遭遇することは避けられない。彼らは狭い店内の通路やらトイレやらで偶然遭遇した大して仲が良かったわけでもないかつてのコミュニティーメンバーとの再会を意味もなく大声でこれ見よがしに楽しんでいた。

僕はいつもと同様、借りてきた猫のように大人しくその場をやり過ごし、場の雰囲気だけは壊さないようにと気を配りながらビールをちびちび飲んだ。

一度も同じクラスになったこともなければ大して話したこともない連中で、当然だが共通した話題なんてこれといってない。僕は何となくそれぞれの近況や勤め先の話を聞き、会話が終わった後のぼんやりした時間を埋めるためだけに煙草を吸った。

一次会で引き上げようかと思ったが、カオルに誘われた手前途中で帰ることができない。仕方なくカオルの車に乗り込み、参加者の知り合いが経営するというバーへ向かった。二次会では一杯目からテキーラをショットで一気させられる羽目になり、場は最高潮に盛り上がっていた。携帯を見るとたった今バスでN市に向かっている志帆から「私も後で合流することになった」との連絡があった。

女の子の一人が電話を取って立ち上がり店を出て行ったかと思うと、見覚えのある女の子を連れて戻ってきた。その顔や声とかつての彼女とをリンクさせるために、頭の奥の抽斗がガタっと音を立てて開いた気がした。

千里さんだった。僕は千里さんを確認するとほとんど反射的にカオルに目をやった。カオルは千里さんを見ることなく隣の女の子とワイワイ話をしていた。本当は声を聞いただけで誰よりも早く彼女の存在に気が付いたはずだ。

女子達は千里さんがやってきたことに気が付くと、キャーという奇声を上げて彼女に駆け寄り抱きついた。カオルは少し悲しげな笑顔で千里さんを見ていた。

千里さんはすっかり大人になっていた。一年ほど前に結婚し、子供もいるらしい。

「うちの子、超イケ面なの!」といってスマートフォンのホーム画面をみんなに見せて回した。

「俺の子だったらもっとイケ面だったのにな」とカオルが千里さんに言った。

僕は四人で公園に言って花見をした時のことを思い出した。あの頃は千里さんの前で緊張してろくに話せなかったカオルが、それなりに気の利いた冗談を言えるようになった。千里さんが法的に他人のものになってしまったから、ようやくカオルも吹っ切れたのかもしれない。

お酒も回りだして、店を出て涼みに行く者やトイレに立ったきり帰ってこない者、ソファーで横になって寝息を立てる者が出始めたころ、たまたま千里さんと二人で話す機会が巡ってきた。

「アユム君久しぶり! 元気にしてる? 奈保子とは会ってる? 私も卒業してから全然会ってなくてさ。奈保子に会いたいな」

「成人式以来奈保子とは会ってないね。俺も会いたいな」本音だった。

「連絡してあげなよ!絶対喜ぶよ!」

「そうかな。じゃあ連絡してみるよ」

成人式に僕がカミングアウトしてから、奈保子からは長期休みの度にメールが来るようになっていた。いつも少しタイミングが合わずに結局二年が経ってしまった。僕は奈保子から飲みに誘われるのは本当に嬉しかったし、未だにスマホの画面越しに見る彼女の言葉で心が洗われる気がした。でもなぜか僕は彼女と飲みに行くことに乗り気ではなかった。

一組の水野さんがふらふらになってやって来て僕の横に座り、かわいらしい笑みを浮かべ「飲んでる?」と聞いてきた。僕が目の前にあった適当なグラスを手に取り一口飲んだら、彼女は満足そうに目を閉じ僕の肩に寄りかかった。

「アユム君彼女いるの?」

「うん」

「誰? 知ってる人?」

「うん。みんなも知ってる人だよ」

「えー。だれー?」

「うーん、そろそろ来るんじゃないかな?」

「志帆!?」

「そう」

「えー!」

女の子達が一斉に僕を見た。

「アユム君、志帆と付き合ってるの!?」

「うん」

「えーー!!」

同じことが二度繰り返された。

「以外~!」とみんな口をそろえて言った。といっても席には酔いつぶれていない女子達しか残っていなかったが。

しばらくすると志帆から電話がかかって来て、僕は店を出て彼女を迎えに行った。志帆がテーブルに着くと、僕は急に肩の力が抜けた気がして彼女の膝の上で眠ってしまった。

深夜二時過ぎに飲み会はお開きとなった。酔いつぶれた連中はそれぞれ先に迎えを呼んで帰ったみたいだった。僕と志帆はカオルの車でそれぞれの家まで送ってもらった。

風呂に入ってから冷たい水をコップ二杯分飲みほし、縁側で煙草を吸いながら奈保子の事について考えてみた。

明日連絡してみよう。脈打つ頭をベッドに横たえ、キャンプファイヤーの後のような虚しい静寂の中僕は眠りに着いた。

なぜ僕は奈保子と飲みに行くことに気が進まなかったか。理由はいくつかある。僕にも彼女が出来たこと。勉強に追われ休みが減ったこと。だが最大の理由は、もう彼女がただの「女の子」になってしまったという事実を目の当たりにしたくなかったからだ。

僕はいつからか、女の子という生き物を避けて生活するようになった。女性は大好きだけど、女の子は苦手だ。つまりレディーは好きだけどガールが苦手なのだ。

彼女達は論理を持たない。当然そこには哲学も生まれない。何が心地よくて、何が不快なのか、きっと当の本人達もちゃんと理解できていないのだろう。何の規則性もない地雷原ほど恐ろしいものはない。そして彼女達の地雷は爆発したら最後、拡散し炎上する。その燃えない炎は僕が発する全ての言語を無にする。彼女達は文字通り聞く耳を持たず、僕を一人置き去りにする。そして無意味な言葉が飛び交い、無意味な血が流れ、時間が浪費される。(Agent Orange Burn!!)

「いつからか」というより「もともと」と言ったほうが正確かもしれない。中学のころを思い返してみてもそうだ。何気ない会話の一部分を切り取って拡大解釈し、友人に告げ口されたこともあった。言ってもない噂話を勝手に広げられた挙げ句「女好き」呼ばわりされ、おまけにこちらの意見を聞き入れる気ははなからない。そうだ、僕はもともと女の子が苦手だったんだ。思い返せば亜弥も七瀬も、美和さんも志帆も、皆彼女たちのほうから僕に話しかけてくれた。そもそも僕から女の子に対して何かを発信するということが今までなかったのだ。

だが僕にとって奈保子はずっと特別な女の子だった。つまり奈保子は「女の子」であっても、僕の中で唯一それを許すことができる女の子だった。しかし奈保子への恋愛感情が薄れてしまった今、彼女が僕にたってただの「女の子」になってしまっている姿を見たくなかったし、本当にそうなっていた場合とても会話を続けられる自信がなかった。

それでも、やはり僕は奈保子に会うことを求めていた。

「久しぶり。年末年始は休み取れそう?昨日みんなで飲んだんだけどその中に千里さんもいて、奈保子にすごく会いたがってたよ。
俺はあと十日くらいこっちにいるつもりだから時間があったらみんなで飲みに行こうよ」

「久しぶりだね。私は二日から仕事だから一日には帰らなきゃいけないんだ。みんなで飲みに行きたいね」

奈保子の返事はそっけなかった。それでも少々強引に誘ったらその日の夜が空いているというので、僕はすぐにカオルに連絡し、急遽奈保子との再会の場が設けられた。

昼過ぎに目を覚まし、夕方に奈保子にメールしたため、もう約束の時間まで三時間ほどしかなかった。僕はすぐに洗面台に向かい髭を剃り、伸びすぎた眉毛と鼻毛をカットした。そして東京から持ってきたすべての服に袖を通して、どの洋服を着ていこうかと小一時間部屋にこもった。

カオルに付添ってもらう手前、僕が車を出して奈保子を迎えに行かなければならない。今から迎えに行くと奈保子に連絡して車を出した。

自分の胸の鼓動の音が車内に響いているんじゃないかと錯覚するくらい、僕は緊張していた。どんな風に彼女に接すればいいんだろう? できればそのまま数時間車を走らせてから彼女を拾いに行きたい気分だった。

奈保子の自宅近くの道路脇に車を止め、彼女が出てくるのを待った。普段はこの曲を聴けと言わんばかりに流すBGMにさえ気を使う。リターン・トゥ・フォーエバー、BGMとしては最適であると信じている。

奈保子の姿が見えた。彼女は白のニットにダウンコートを羽織り、寒そうに両腕を抱えながら小走りで助手席に乗り込んだ。開けられた助手席のドアから流れ込んだ冷たい外気と一緒に、かすかに彼女の香りがした。髪は今まで見た彼女の中で一番長かった。僕は気付かれないようそっと唾を飲み込んだ。

「おねがいしまーす。久しぶり。寒いね」

奈保子だ、と僕は思う。

「N市は寒いね。いつからこっちにいたの?」

そう言って僕は車を走らせた。

「今日帰ってきたの。あんまり休みが取れなくて。昨日みんなで飲んだんでしょ? みんな元気そうだった?」

「うん。元気でやってるみたいだったよ。バレー部で言うと水野さんと、千里さんか」

「そっか、私も会いたかったな。千里すっごく美人になってたでしょ? もうお母さんだからね」

「すごく大人っぽくなってたね。カオルも喜んでたよ」

「あれ? カオル君って千里のこと好きだったんだっけ?」

「そうだよ。覚えてないの? 高一の時四人で花見に言ったじゃん」

「なつかしい! そんなこともあったね」

僕はカオルの家に着くまでの数分間、沈黙を避けるため必死で会話を続けた。本来ならただ窮屈なだけのそんな時間も、今は幸せだった。

カオルの家の前で車を止め電話をする。電話を切ってからのほんの一瞬、車内にチック・コリアのキーボードソロだけが鳴り響いた。

本当はこうして二人きりで、狭い車内での沈黙という緊張感を楽しむのも悪くないと思ったが、僕はすぐに話の続きを始めた。

カオル早く来てくれという気持ちと、まだ来ないでくれという気持ちとが複雑に入り混じっていた。カオルが車に乗り込む。ほっとする半面、少し残念な気持ちになった。

カオルは僕以上に奈保子と連絡を取っていなかったため、奈保子との再会を懐かしんだ。あとはカオルに任せれば場は回る。

店はカオルに決めてもらうことにして、とりあえず僕は中央通りまで車を走らせた。コインパーキングに車を停め、年末と言いうのに相変わらず人通りの少ないN市の街を三人で歩いた。

奈保子が履くヒールの音が耳に心地よかった。ヒール? そういえば奈保子がヒールを履いているのを見るのも初めてだ。いやそんなことより、奈保子が僕の前を歩いている。不思議な感覚だった。小学生のころは奈保子の方が僕より少しだけ背が高かった。今では僕の方が彼女より頭一つ分大きい。大人になった奈保子を認識すると同時に、奈保子のいなかった長い時間を思い出した。

通りを少し歩くと、カオルは突然「ここでいいか」と言ってバーの中へ入っていった。N市にしてはオーセンティックなバーだった。僕らは一番奥のテーブル席へ案内された。

「N市にこんなバーあったんだ。カオルよく来るの?」と僕が聞くと。

「ううん。初めてだよ。適当に入ってみただけ」と嬉しそうに言った。

よくよく聞くとバー自体初めてだという。昔から本当になんだか憎めない奴だ。

奈保子はダウンコートを脱ぎ、隣の椅子の背に掛けた。胸のあたりまで伸びた彼女の髪が描く柔らかな曲線を、僕は目で追わずにはいられなかった。

「こういうお店初めてだから何を頼んだらいいか分からないな」カオルがメニューを見ながら言った。

「そういう時はバーテンさんに相談するといいよ」僕がそういうとカオルはなるほどと言ってバーテンダーを呼んだ。綺麗な中年の女性バーテンダーだった。

「あの、最近会社でうまくいってなくて早く辞めたいと思ってるんですけど、何かそんなカクテルを作ってください」

女性バーテンダーは最初苦笑いしながら首をかしげ、アルコールの度数やグラスの種類を聞いてから、「ご期待に添えるか分かりませんが、やってみます」といってカウンターへ戻っていた。奈保子はイチゴ系のカクテルを頼んだ。しばらくしてドリンクが運ばれてきた。

「こちらイチゴのカクテルで、イチゴのウォッカフィズになります。それからお仕事が大変というお話だったので、ここで少し羽目をはずして発散していただきたいという意味で、バンジージャンプといううちのオリジナルカクテルです」

カオルも奈保子もすごく喜んだ。

僕はハンドルキーパーのため、ジンジャーエールを頼んだ。そして十年ぶりの集いを祝って三人で乾杯した。

会話は予想以上に盛り上がった。大抵はカオルが一人で喋り、奈保子がそれを聞いて笑い、僕が横から少し口をはさんで話を補足したり、突っ込みを入れたりした。

小学校を卒業してからの十年という月日について考えてみた。僕が車を出し、奈保子は酒を飲み、カオルは煙草を吸っている。そんな未来が今目の前にあることが奇跡のように感じた。

奈保子は本当にかわいかった。奈保子は僕がこれまで出会った女の子の中で最も僕の好みだった。美人や綺麗というのとは少し違うし、一般的に特別優遇されるタイプのかわいい子でもなかった。だが彼女は僕を強烈に引き付ける魔力のようなものを先天的に身に付けていた。僕は数年ぶりに彼女という人間と長時間接することで、その魔力を再認識した。他の女の子が持っていない圧倒的な何かを彼女は持っていた。僕はただただ奈保子に見とれ、その何かについて考えた。最高に贅沢で幸せな時間だった。

しかし、彼女との会話の中には謎のシコリがあった。確かに奈保子は笑っていたが、本当に楽しいと思って笑っているんだろうか? そんなひっそりとした懐疑心を僕は感じた。

奈保子はお酒が強かった。結局何杯飲んだか分からないが、僕にはついていけないくらい早いペースでグラスを空にした。カオルは酒が弱かった。奈保子のペースに合わせてドリンクを頼んでいたカオルは、時計の針が十二時を回るころに火のついたタバコを灰皿に残したまま眠ってしまった。

「お酒強いんだね」

「うん。さすがに少し酔ってきちゃったけど」

「まだ飲む? 時間は大丈夫?」

「全然大丈夫。すっごく楽しい」

奈保子の楽しいという言葉が、なぜか僕を少し不安にさせる。

「小学校を卒業してから十年経ったよ」

「十年! ホントだ。早いね」

「あまり誤解を与える言い方はしたくないんだけど、この十年で奈保子のことを考えない日はなかったよ」

「もう、そういうこと言うのやめてよ。この前メールで彼女できたって言ってたじゃん。彼女可哀そうだよ」

「でも事実なんだよ。彼女も俺が奈保子のことをどう思ってるか知ってるはず。奈保子は俺にとって特別な女の子なんだよ。彼女とは全く別の次元で俺は奈保子のことが好きなんだ。今の彼女は恋人として好きだし、尊敬してる部分もある。だから可哀そうじゃない」

「アユム君の中で私は一体どうなってるの?」そう言って彼女は笑った。

「てか彼女って私の知ってる人?」

奈保子は中学のころ志帆と同じクラスだった。志帆と付き合っていると言うと奈保子も先日の女子と同じようにきっちり二回驚いた。

「よく奈保子の夢を見るよ」

「私そんなに思われてたんだ。どんな夢?」

「いつも同じパターンの夢だよ。例えば友達と教室でわいわい話してると、奈保子が友達と教室に入ってくるんだ。俺はすぐに奈保子の存在に気がつくんだけど、緊張しちゃって奈保子の方を見ることもできない。で、知らないうちに奈保子はいなくなってる。そんな夢を月に一回くらいのペースで見るんだ。目を覚ますと隣に志帆が寝てる。複雑だろ?」

奈保子が返答に困っている間に僕はグラスを空にして、ジンジャーエールのおかわりを注文した。そして話題を変えるためにさして興味のない無害な質問を奈保子に投げかけることにした。

「中学の頃の友達とは会ってる?」

「ほとんど会ってないかな。今は専門学校の時一緒だった友達とよく遊んでるよ」

「会いたい友達とかいない? 小学校の時同じクラスだった人とか」

「別にいないかなぁ。今会ってもたぶん盛り上がんないだろうし」

「優さんとかは? 仲良かったじゃん」

「なんかね、中学入ってしばらくして優さんと喧嘩してね。喧嘩の原因も覚えてないんだけど、それから全然連絡とってないの。小学生の時は仲良かったのにね」

「仕事はどう? 休みの日は何してるの?」

「大変だけど楽しいよ。休みの日は友達とご飯いくか買い物行ってるかなあ。私なんか寂しくて、部屋に一人でいるのが。だから休みの日は友達と一緒にいる」

「趣味とかないの?」

「趣味かぁ。ないなぁ。楽しいことしてる時が好き。友達と一緒にいると何にも考えなくて済むから楽しい」

僕は煙草に火をつけ、ひと口目の煙を天井に向かって大きく吹き上げた。店内の小さな天井で行き場を失くした煙が徐々に薄れていくのを眺めた。煙草の先端から立ち上る煙は立体的で複雑な曲線をくっきりと描きながら天井へ向かい、やがて同じように行き場を失くし、天井に煙の層を作りだした。もしここのお客がみんな喫煙者だったら、この店の天井はどうなってしまうんだろうと思った。

そろそろ出ようか、と言って僕は店員を呼び、カオルを起こした。時刻はもう二時を回っている。六時間近くも店にいたのか。なんだか信じられない。

車内で二人きりにされることが耐えられそうになかった僕は、奈保子を先に家に届けた。

「奈保子ちゃんかわいかったね」と、奈保子を降ろした後の帰り道でカオルが言った。

「でしょ? だからずっと言ってるじゃんかわいいって」

「うん。奈保子ちゃんかわいいわ」

カオルを降ろしてからの家までの帰り道、この数時間に起きた出来事を一つ一つ思い出し、そこで取り留めなく生まれた感情を一つ一つかき集め、整理した。

十年。テン・イヤーズ・アフターでもかけておけばよかった。十年間、奈保子はいつも僕の心の片隅にいた。

気がつけば通り過ぎていた十代の十年と、今目の前にある二十代の十年、そしてその後も続くであろう三十代、四十代の十年。まだ見ぬ十年を想像すると、そこにある感動や密度は年を重ねるごとに薄れていくように思えた。十代の十年と、それ以外の十年が持つ重みや影響力、密度や感動は明らかに違う。十代の十年が持つそれらの要素がどれくらい信用に値するかは別として。

僕が十代に抱えた悩みや不安の半分は奈保子のためにあった。そういう意味で僕の人生の半分は奈保子に奪われている。そのように人格形成された僕の頭の中にいる奈保子は、純粋な意味でのアイドルだった。

危惧した通り、奈保子は変わっていた。いや、元々こんな子だったのかもしれない。

僕はあのころの彼女を誰よりも知っているような気になっていた。でも本当は何も知らなかったのかもしれない。思い返せば僕にとっての恋とは本来そういうものだったかもしれない。

おわり

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この記事を書いた人

平成生まれのアラウンド・サーティーです。30歳を迎えるにあたって何かを変えなければという焦りからブログをはじめました。このブログを通じてこれまでの経験や学びを整理し、自己理解を深めたいと思っています。お気軽にコメントいただけますと励みになります。どうぞよろしくお願いいたします。

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