サイコパスと遭遇した話。私は今までサイコパスと思わしき人間に2人遭遇したことがある。しかもそれは2人とも学生時代に同じサークルに属していた友人だった。そんなサイコパスから被った実体験を教訓としてまとめたいと思う。
【目的】MAX仲良くなること
若かりし私の人間関係の目的は「MAX仲良くなること」であった。どのような人でも、年齢も性別も国籍も宗教も関係なく、人間関係の最終目標は「MAX仲良くなること」だと、18歳の私は信じて疑わなかった。世界中の人がこの目標をもっと尊重して生きられたらきっと戦争もいじめも差別も世の中からなくなるだろうとさえ思っていた。
私に興味を示してくれる人に対して、それがどのような人であれ、私はMAX仲良くなろうと努めた。そして人の数だけ「MAX仲良い」状態があると知った。地元の友人Aとはこんな風にMAX仲が良いけど、大学の友達Bとはあんな風にMAX仲が良い。私と相手の共通の興味や関心、またはお互いがお互いに求める役割によって、MAX仲が良い状態というのは異なる。MAX仲良い状態はその個人によって固定されるものではなく、相手との関係性によって無限に生まれるものなのだ。
【結果】良心の呵責なしに、人を道具として利用できる人達
東京から新幹線やらバスやらを乗り継いで4時間かかる片田舎で育った私には、そんな人間がこの世の中に存在し、それが意外と身近にいるなんて思想像もできなかった。
大学生活に馴染もうとまだ各々が手探りしていた1年目5月始め、私はその女と出会った。私はこの頃、既に所属を決めたアコギサークルの部室に我が物顔で出入りし、先輩に憚りもせず好きにギターを弾いていた。同じタイミングで入部を決めた何人かの仲間と部室でだべっている時だった。同期の女の子が新たな入部希望者を連れてきた。既に新入生歓迎コンパは終わっており、このタイミングでの入部希望者は我々新入部員にとっては思ってもみない収穫だった。我々アコギサークルの同期は、入部当時男子20名、女子10名ほどで、女子メンバーの入部により力を入れようと男子を中心に意気込んでいたところだった。
その新しい入部希望者、名前を仮に美穂としよう。中国地方出身、背は小さめ、痩せ形、菅野美穂をガリガリにして貧乏くさくしたような顔立ちだった。ぽっちゃり専門である私には一目で無縁の女とわかった。
学生生活にも慣れ始めた６月、一年生同士の恋愛話が無駄に盛り上がってきたころだった。美穂さんが唐突にこんな話を吹聴するようになった。
「私には好きな人が3人いる。ひとりはK君、ひとりはM君、ひとりは免色君（私だ）」
美穂さんの彼氏候補ベスト3にめでたく選ばれたKとMと私の耳には、それぞれ別のルートからその情報が入ってきた。不細工でない女子からの好意に色めき立たない18歳なんてこの世に存在するのか？我々3人はなぜか知らない内に、口にすることはなくとも暗黙の「ライバル」として仕立て上げられた。
Kは手が早い方なので、早速美穂さんそれとなく自らをアピールしだした。しかしKのノリの軽さと適当さが美穂さんのお眼鏡に叶わなかったようで、早々に番付から名前を消した。
残るは私とMだったが、より男前で美穂さんとの距離が近いMが勝利することは誰の目にも明らかだった。
強がりでもやせ我慢でもなく、始めから私はこの手の競争には関心がなかったので、素直に美穂とMのサークルメンバー内のカップル第一号を祝福した。
２人はまもなく交際を始めるだろうと思われたある日、ちょっとした事件が起きた。Mが入学後間もなく行われた別のサークルの新歓コンパで持ち帰った女の子と、今だに繋がりがあることを示す証拠があがったのだ。そしてその情報は瞬く間に美穂さんの耳にも届いた。
美穂さんはMの素行の悪さに怒り、悲しんでいた。
それから数日後、サークルメンバーと行ったフットサルの帰り道、私は美穂さんに話しかけられた。「今日免色君のお家、遊びに行ってもいいかな？」
どうしたのかと聞くと、「免色君ち、ベランダから星が見えるんでしょ？見てみたいなと思って、だめかな？」
不細工でない女の子が家に泊まりに来たいと行って、色めき立たない18歳なんてこの世に存在するのか？私は申し出を承諾し、本日夕方に私のアパートの最寄り駅で待ち合わせることとした。
私は大学生活を送る上で、自分のアパートが溜まり場となることを絶対に避けるために、あえて大学から時間のかかる人気のない駅を選んで住まい探しをした。だから東京に程近い神奈川県のアパートでも星を見ることが出来たのだ。初めての一人暮らしで、都会の星空を眺めながらベランダでタバコを吸うのが、この頃の自分にとって最高の瞬間のひとつだった。
うちから星が見えることを、この子はなぜ知っているのか？まあ女が家にのこのこ出向いてくれるというのだからそなことはどおでもいいか。しかし、これがMへの当て付けであることは明らかだ。くれぐれも足を掬われないようにしないとな。私はそう思った。
駅で合流した我々は、私のアパートまでの道のりを２人で20分ほど歩いた。途中駅スーパーによって食材を買い揃え、美穂さんが泊めてくれるお礼にといって出身地の郷土料理である広島焼きを作ってくれた。
食事の後にワインを開けると、美穂さんは映画が見たいと言った。映画を一本（私が大好きだったリリィシュシュの全てを）見終えると、ベランダに出て２人で星を眺めた。
我々はお互いの生い立ちについて語り合った。どのような家庭に生まれ、どのような環境で育ち、何に憧れを抱き、どんな挫折を味わい、どんな夢を持ってここへやってきたのか。美穂さんは自分の内にあるもの全てを、私に包み隠さず素直に話してくれたように思えた。私は美穂さんとの会話がとても楽しかったし、美穂さんもそう感じてくれていることが私にはわかった。きっと美穂さんとはいい友達になれると私は思った。私はそう伝えると、彼女もそれに強く共感してくれた。
女性との関係において「MAX仲が良い」状態が恋人であるのか友人であるのかはわからない。いずれにせよ私は、久しぶりに現れた話の分かる友人、美穂さんと、「MAX仲良く」なるために動き出そうとしていた。
Mの話はしなかった。もしこの時美穂さんがMのことで傷ついているのなら、私がそれを蒸し返すこともないし、必要があるなら美穂さんからMの話をするだろうと思ったからだ。
私はサークルの友人であるMと、これからMAX仲良くなろうと思えた美穂さんに敬意を払い、その日は何もせずに就寝した。そして翌日、「また遊ぼうね」と満足げに言って美穂さんは小田急線の改札へと消えて行った。
それから数週間もしないうちの出来事だった。私は当時大学にバイク通学していたのだが、訳あってその日は駐輪場の閉鎖時刻までにバイクを取りに行くことが出来なかった。そして翌日の朝一で私はバイクに乗っていかなければならない場所があった。私は閉まった大学の校門の前で途方に暮れていると、中から美穂さんが出てきた。「免色君！偶然だね、どうしたの？」
私は事の経緯を説明すると「だったうちに泊まっていきなよ！私の家歩いて行ける距離だから」不細工でない女の子に泊まっていきなよと言われて色めき立たない18歳なんてこの世に存在するのか？ 私は美穂さんの提案に甘んじて乗ることにした。
美穂さんの家は大学から歩いて20分ほどだった。上京する一人娘を心配した両親が、少しでも大学の近くにと用意した家賃15万のオートロック付2DKだ。我々は近くのコンビニでビールと酎ハイを買い、彼女の家のリビングで、２人用の小さなテーブルで向かい合って飲んだ。彼女は会話のキャッチボールが上手だった。私がボールを投げると、美穂さんは私が求めるコースに、私が求める絶妙なスピードで返球することができた。こんなに聡明で気の合う女性は初めてだと、私は思った。もし彼女がぽっちゃりだったら、、、私は間違いなく美穂さんに心を、完全に奪われていただろう。
私は翌朝早くに用事があったので、缶ビールと缶酎ハイを一本ずつ飲み干すと、我々は早々に就寝の準備に入った。美穂さんは自分の布団の隣に（彼女は布団派だった）私のための布団を敷いてくれた。消灯した後も我々の会話は途切れることがなかった。私は会話の流れの中で、それとなくＭのことについて尋ねてみた。
美穂「Ｍ？、もうなんとも思ってないよ。確かに最初はいいなと思ったけどね」
私「そっか、でもＭは美穂さんのことが好きだって言ってたよ？新歓で持ち帰った子はもうすっぱり切ったって。Ｍは美穂さんのこと真剣に考えてると思うけどな」
美穂「ないない、Ｍはもう私の中では終わったの。私、女の子にだらしない人ってやっぱり嫌だなって思ったの。だから今は免色君が私の中では一番だよ」
私はそう言ってもらえたことが嬉しかったし、彼女の言葉を素直に受け入れた。今までの彼女の屈託のない私への無邪気な態度から、彼女が強がりや計算で「Ｍはない」と言っているようには考えられなかったからだ。
私は、Ｍの友人として美穂さんがＭとはもう元に戻れないことが悲しかった。だが美穂さんとの関係について、私がMAXを望んでいて、その行き着く先がどこになるのかは（恋人になるのか、親友となるのか）私にもわからないということをそのまま伝えた。美穂さんは私の考え方に強い理解を示してくれた。
翌朝私は泊めてくれた礼を伝え、また遊びに来るよと言って部屋を出た。美穂さんもまたいつでも寄って行ってねと言ってエレベーターに乗る私を見送った。
私は美穂さんについて、真剣にこの先を考えるようになっていた。次に美穂さんに会ったら何の話をしよう？今後美穂さんと中を深めるうえで、早い段階で伝えておくべき考え方はないだろうか？今我々がより仲良くなるために必要な会話とはどのようなものだろうか？そう考えることさえ、私には楽しみになっていた。
私が美穂さんの家にお邪魔してから一週間ほど経ったある日だった。サークル活動終わりに、いつものように同期と食事に行った。そこにはもちろん、美穂さん格付初期上位ランカーであるＫとＭもいた。何気ない会話の流れで美穂さんの話になり、ＫがＭに「そういえばあの件、どうなったんだよＭ？」と尋ねた。
「いやぁ、ちょうど今日みんな集まったから話そうと思ってたんだけどさ、実は先日正式に美穂さんと付き合うことになりまして（笑）。俺が新歓で持ち帰った子を完全に切ったってちゃんと説明したらわかってくれたよ。なんかみんなにも迷惑かけて悪かったな！はは！」
我々は皆でＭを祝福し、サークル内カップル第一号をうらやましがった。少しずつ膨らんでいた美穂さんへの気持ちと、美穂さんの家へ泊ったことを誰にも言わなかったことが、私にとっては不幸中の幸いだった。その後も美穂さんから個人的にＭとの交際についての説明があるものとほのかに期待したが、美穂さんは素知らぬ顔でＭとの交際を楽しんでいるようだった。
私は完全に利用された。かませ犬だった。私には心に決めた人が別にいたので、幸い美穂さんに骨抜きにされることはなかった。Ｍとのデットヒートに敗れたとも感じることはなかった。ただ、２度にわたる２人きりの夜を通じて、私には美穂さんと分かり合えたという確かな手ごたえがあった。彼女の良き友人の一人となれた自信があった。にもかかわらず、私に声の一つもかけることなくＭとの交際を決めたことが、私には屈辱的だった。私は私なりに、真摯に彼女と向き合い、正直でありのままの自分をぶつけたつもりだった。その好意をあんな無邪気な笑顔で受け取っておいて、人に断りもなく笑顔で切り捨てられる人間がいることに私はすごく驚いた。
結局のところ、そんな話は若いころにはよくある話だ。あの数週間の一連の体験は詰まる話、私が恋愛の駆け引きに巻き込まれ、敗北したというだけの話だ。世の中は厳しい、そして様々な類の人間がいて、加えて私は人を信用しすぎる。それがこの一件で私が学んだ教訓だった。
決定的だったのは、その後美穂さんが「免色君は私のことが好きだった」ということを言って回ったことだった。私は淡々と事実を否定し、これ以上美穂さんに関わることを避けた。
そしてそれ以来、私は美穂さんとは距離を取り、二度と彼女と関わらないことを心に決めた。私は彼女の自尊心を満たすための道具の一つだったのだ。
美穂さんの快進撃は大学１年前期にとどまらなかった。ある時Ｍの浮気を気にした美穂さんは、サークル内の先輩に思わせぶりな態度で近づき、自分も先輩との浮気を匂わすことでＭの気を引こうとした。その先輩は当時サークル内で彼女がいたのだが、美穂さんが近づいたことがきっかけで最終的には破局し、先輩の彼女だった人はサークルを辞めた。またある時はサークル内の同期を、「Ｍのことで相談がある」と言って自宅に招き泊まらせた。そんなことが在学中の４年間で数えきれないほどあった。すべてはＭの気を引くため、Ｍの自分への愛情を確かめるための行為だった。そのためならばピルも飲んだし、Ｍの親友とも寝た。彼女は自分の目的のために手段を選ばなかった。美穂さんのおかげでサークルの人間関係は一時険悪となり、そのためにサークルを追われる人や、同じグループにいられなくたった被害者が定期的に出た。
大学を卒業しても美穂さんとＭの関係は続いた。その後もＭが浮気したとか、それに対抗して美穂さんが浮気したとか、そんな話を友人伝いに聞くことがあった。
社会人４年目、美穂さんとＭは結婚することになった。お互いに色恋沙汰に関するいざこざは数えきれないほど経験したが、それでもやはり２人はお互いが人生の伴侶としてベストであることを認めていたのだ。結婚資金や引っ越し資金を準備して、お互いの親に結婚することを報告した。短い休みを工面して遠方に住むお互いの両親への挨拶も済ませたある日のことだった。美穂さんがＭに言った。
「ごめん、やっぱり私、結婚できない、、、」
その時美穂さんは妊娠していた。別の男の子供をだ。
Ｍはめでたく美穂さんと別れ、もう連絡も取らなくなった。風の噂では美穂さんはその間男と結婚し、子供を産んで母親になったそうだ。Ｍが先月結婚してくれたことが私にはせめてもの救いだ。
美穂さんは、彼女は、自分の目的のためであれば、何の良心の呵責もなく他人を利用し切り捨てることができるサイコパスだった。
今となっては、私があのタイミングで美穂さんの標的となったことは運が良かったと思える。大学生活の序盤であのような貴重な体験をできたことは、ある種私の財産となった。「簡単に人を信用しない、簡単に人に心を開かない、世の中には悪意なく人を傷付けられる人がいる」ということを学べた。しかもほぼノーダメージで、周りにあまり知られることなく。
【対策】サイコパスには近づくな
サイコパスとは平たく言うと要は「やばい奴」だ。どうやばいのか？一般にサイコパスとされている人間の特徴は
・平然と（病的に）嘘をつく
・他人を道具のように（冷淡に）扱う
・人の注目を浴びていなければ気が済まない
・責任感、罪悪感が皆無
・一見カリスマ性を有しているように見える
などなど。そんな人結構いそうだが、いずれも「病的」であること、一般的には理解しがたいほど自己中心的な感覚をもっていることがポイントだ。
経験上彼らは、自分の獲物を見分ける嗅覚が異常に発達している。誰がカモで、誰がそうでないかを見分ける能力だ。ウブで世間知らずの田舎ものだった私は、彼らの絶好のカモだった。
ネットで情報収集した程度だが、彼らへの最善の対応方法は、深く関わらないことだ。
冒頭で触れた、美穂さん以外の、もう一人のサイコパスの友人について、私は関係の修復を図ったことがある。私が心がけたのは、彼が人とは違う倫理観を持っていることを強く認識した上で、サイコパスとの「MAX仲が良い関係」というものを追求することだった。
その件については、また別の記事で記そうと思う。
以上
