パン屋再襲撃
発行日 1986年4月10日
発行元 文藝春秋
1.パン屋再襲撃
「それで我々は包丁とナイフをボストン・バッグにしまいこみ、椅子に座ってパン屋の主人と一緒に『タンホイザー』と『さまよえるオランダ人』の序曲を聴いたのさ」
パン屋再襲撃
ワーグナー『タンホイザー』
ワーグナー『さまよえるオランダ人』
僕と妻は中古のトヨタ・カローラに乗って、午前二時半の東京の街を、パン屋の姿を求めて彷徨った。
パン屋再襲撃
トヨタ・カローラ
2.象の消滅
3.ファミリー・アフェア
僕は冷蔵庫からビールを出してグラスと一緒に居間に運び、ステレオ・セットのスイッチを入れて、ターン・テーブルにハービー・ハンコックの新しいレコードを載せた。
ファミリー・アフェア
ハービー・ハンコック
年が明けてしばらくした頃、母親が朝の九時に電話をかけてよこした。僕はブルース・スプリングスティーンの『ボーン・イン・ザ・U・S・A』を聴きながら歯を磨いているとろだった。
ファミリー・アフェア
ブルース・スプリングスティーン『ボーン・イン・ザ・U・S・A』
僕はずっと居間のソファーに寝転んで、アメリカにいる友だちが送ってくれた無修正の『ハスラー』のヌード写真を見ていた。
ファミリー・アフェア
『ハスラー』
彼が軽いボーカルを聴きたいというので、妹はフリオ・イグレシアスのレコードをかけた。フリオ・イグレシアス!と僕は思った。やれやれ、どうしてそんなモグラの糞みたいなものがうちにあるんだ?
ファミリー・アフェア
「お兄さんはどういう音楽が好きなんですか?」と渡辺昇が訊いた。
「こういうの大好きだよ」と僕はやけで言った。「他にはブルース・スプリングスティーンとかジェフ・ベックとかドアーズとかさ」
「どれも聴いたことないな」と彼は言った。
フリオ・イグレシアス
ジェフ・ベック
妹は今度はウィリー・ネルソンのレコードをかけた。ありがたいことにフリオ・イグレシアスよりはほんの少しましだった。
ファミリー・アフェア
ウィリー・ネルソン
カウンターの中のTVは巨人・ヤクルト戦の中継をうつしていた。もっとも音は消されて、そのかわりにシンディー・ローパーのレコードがかかっていた。
ファミリー・アフェア
シンディー・ローパー
明日になればなんとかなるさ、と僕は思った。駄目ならまた明日考える。オブラディ、オブラダ、人生は流れる。
ファミリー・アフェア
『オブラディ・オブラダ』
僕は冷蔵庫から缶ビールを二本出し、ステレオ・セットのスイッチを入れて、小さな音でリッチー・バイラーク・トリオのレコードをかけた。
ファミリー・アフェア
リッチー・バイラーク・トリオ
4.双子と沈んだ大陸
「208」と「209」のトレーナー・シャツを着た双子と主人公が以前交流があったという設定と、主人公が小さな翻訳事務所の共同経営者という設定は、長編小説『1973年のピンボール』のそれと共通する。
wiki/双子と沈んだ大陸
『1973年のピンボール』
5.ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界
昨日僕は夕食のあとで映画館に入ってメリル・ストリープの『ソフィーの選択』を観たのだ。
ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界
メリル・ストリープ『ソフィーの選択』
ショスタコヴィッチのチェロ・コンチェルトとスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンのレコードが強風にふさわしい選択であるように思えたので、僕はその二枚のレコードを続けて聴いた。
ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界
ショスタコヴィッチ『チェロ・コンチェルト』
スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン
6.ねじまき鳥と火曜日の女たち
スパゲティーはゆであがる寸前で、僕はFMラジオにあわせてロッシーニの『泥棒かささぎ』の序曲を口笛で吹いていた。スパゲティーをゆであげるにはまず最適の音楽だった。
ねじまき鳥と火曜日の女たち
ロッシーニ『泥棒かささぎ』
ラジオはロバート・プラントの新しいLPを特集していたが、二曲ばかり聴いたところで耳が痛くなってきたのでスイッチを切った。
ねじまき鳥と火曜日の女たち
ロバート・プラント
作品を貫く不穏なムードと物語のおおまかな骨格は、レイモンド・カーヴァーの「あなたお医者さま?」(『頼むから静かにしてくれ』収録)の影響が見られる。
wiki/ねじまき鳥と火曜日の女たち
レイモンド・カーヴァー『頼むから静かにしてくれ』
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