カンガルー日和
発行日 1983年9月9日
発行元 平凡社
1.カンガルー日和
英訳版のタイトルは、J・D・サリンジャーの短編小説 “A Perfect Day for Bananafish” に由来する。サリンジャーの同短編の日本語訳は「バナナフィッシュにうってつけの日」(野崎孝訳)、「バナナフィッシュ日和」(柴田元幸訳)などがある。
カンガルー日和_(小説)
サリンジャー「バナナフィッシュ日和」
2.4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて
長編小説『1Q84』(2009年 – 2010年)は本短編から派生した物語である
『1Q84』
3.眠い
4.タクシーに乗った吸血鬼
「信念というのはもっと崇高なもんです。山があると思えば山がある、山がないと思えば山はない」
カンガルー日和-タクシーに乗った吸血鬼
なんだかドノヴァンの古い唄みたいだ。
ドノヴァン
5.彼女の町と、彼女の緬羊
6.あしか祭り
7.鏡
8.1963/1982年のイパネマ娘
スタン・ゲッツのヴェルヴェットのごときテナー・サクソフォンの上では、彼女はいつも十八で、クールでやさしいイパネマ娘だ。
カンガルー日和 1963/1982年のイパネマ娘
スタン・ゲッツ『イパネマの娘』
彼女はいわゆる信念の人で、野菜をバランスよく食べてさえいれば全てはうまくいくものと信じ切っていた。人々が野菜を食べ続ける限り世界は美しく平和であり、健康で愛に満ちあるれているであろう、と。なんだか「いちご白書」みたいな話だ。
カンガルー日和 1963/1982年のイパネマ娘
「いちご白書」
『1963/1982年のイパネマ娘』はある種の概念をつきつめて書いた作品である。ここには具象性というものは皆無である。『1963/1982年のイパネマ娘』はリチャード・ブローティガンにとっての『アメリカの鱒釣り』と同じような位置にある。僕の作品を例にあげれば、『貧乏な叔母さんの話』と似ていると思う
『村上春樹全作品 1979~1989』第5巻、付録「自作を語る」より。
リチャード・ブローティガン『アメリカの鱒釣り』
9.バート・バカラックはお好き?
我々はコーヒーを飲んでしまうと、バート・バカラックのレコードを聴きながら身の上話をした。
バート・バカラックはお好き?
バート・バカラック
彼女はフランソワーズ・サガンのファンで、僕にサガンの話をしてくれた。彼女は『ブラームスがお好き?』が気に入っていた。僕もサガンは嫌いではない。
バート・バカラックはお好き?
フランソワーズ・サガン『ブラームスがお好き?』
10.5月の海岸線
彼女たちの好きなもの、嫌いなもの、クラスのこと、街のこと、世界のこと……、アンソニー・パーキンス、グレゴリー・ペック、エルヴィス・プレスリーの新しい映画、そしてニール、セダカの「別れはつらいね」。
5月の海岸線
ニール・セダカ『別れはつらいね』
「……は誰とでも寝る」(電話番号を書いておいてくれるべきだったな)
5月の海岸線
「ALL YOU NEED IS LOVE!」(コバルト・ブルーのスプレイ・ペンキだ)
僕は河原に腰を下ろし堤防に背をもたせかけ、ひっそりと残された五十メートルばからの幅の小さな海岸線を何時間も眺めていた。
ALL YOU NEED IS LOVE
11.駄目になった王国
なかなか上手いピアノも弾く。ビル・エヴァンスとモーツァルトのレコードをいっぱい持っている。
駄目になった王国
ビル・エヴァンス
モーツァルト
小説ではバルザックとかモーパッサンといったフランスのものが好きだ。大江健三郎なんかも時々読む。そしてとても的確な批評をする。
駄目になった王国
バルザック
モーパッサン
大江健三郎
12.32歳のデイトリッパー
そして僕ははじめて女の子をデートに誘った。流行っていた曲はクリフ・リチャードの「サマー・ホリデイ」だっけ?
32歳のデイトリッパー
まあどうでもいい。
クリフ・リチャード「サマー・ホリデイ」
朝のランニングをすませると野菜ジュースを一缶飲み、椅子にごろんと横になり、ビートルズの「デイトリッパー」をかける。
32歳のデイトリッパー
「デ――――イ・エイ・トリッパー」
あの曲を聴いていると、列車のシートに腰かけているような気分になる。
ビートルズ「デイトリッパー」
13.とんがり焼の盛衰
14.チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏
静かになって我々が話しはじめると、またすぐに次の電車がやってきた。そういうのってコミュニケーションの分断というか分裂というか、すごくジャン=リュック・ゴダール風だ。
チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏
ジャン=リュック・ゴダール
本作品の舞台となる「三角地帯」とは、東京都国分寺市西恋ヶ窪1丁目にある、JR中央本線と西武国分寺線に挟まれた場所を指す。実際に村上夫妻は1970年代前半、この土地の一軒家に暮らしていた。
『村上朝日堂の逆襲』新潮文庫、21-22頁
「三角地帯」東京都国分寺市西恋ヶ窪1丁目
15.スパゲティーの年に
ある時は高校時代に一度だけデートしたことのあるおそろしく足の細い女の子であり、ある時は何年か前の僕自身であり、ある時はジェニファ・ジョーンズを連れたウィリアム・ホールデンであったりした。
スパゲティーの年に
ジェニファ・ジョーンズとウィリアム・ホールデン
それから僕のまわりの何もかもが氷の柱に変わっていった。まるでJ・G・バラードのサイエンス・フィクションの場面のように。
スパゲティーの年に
J・G・バラード
16.かいつぶり
17.サウスベイ・ストラット―ドゥービー・ブラザーズ「サウスベイ・ストラット」のためのBGM
「いちいち断るまでもないだろうが、これはチャンドラーの初期の短編小説に捧げるオマージュである。内容的には何の意味もない。ただの文体の羅列。でも書いている時はけっこう楽しかった」
『村上春樹全作品 1979~1989』第5巻、講談社、付録「自作を語る」
ドゥービー・ブラザーズ「サウスベイ・ストラット」
ふたつの銃声がジーン・クルーパとバディ・リッチのドラムバトルみたいにかさなりあい、十秒後に全てが終わった。
サウスベイ・ストラット―ドゥービー・ブラザーズ「サウスベイ・ストラット」のためのBGM
ジーン・クルーパとバディ・リッチ
18.図書館奇譚
ふしぎな図書館
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