3「中学2年生」

虚構
スポンサーリンク

2004年4月「男女交際」

中学二年生になった。一年のころから数えて通算で三回、僕は杏理さんに告白された。彼女は僕が奈保子の事を好きだと知った上で想いを伝えてきてくれた。僕の答えは変わらなかった。ずっと変わらず奈保子の事が好きだった。

理科の授業中、杏理さんの友達である絵理子さんが僕に話しかけてきた。

「正直三回も告白されるとウザいと思うでしょ?」

「ん~まあ、嬉しいけどね」

僕は何の気なしにそう答えた。絵理子さんの口ぶりから、肯定的な意見を求めていると思ったから、否定はしなかった。その週の土曜日、杏理さんから電話が掛ってきた。

「あのさ、告白されるのがウザいとか人に言うのやめてくれない!」

僕は唖然とした。言ったのは僕じゃない。絵理子さんだ。背が高くてがたいが良くていつも眼の下にクマがある絵理子さんが言ったことだ。あれは完全な誘導尋問だ!と僕は弁解しようと思ってやめた。電話越しに、杏理さんの後ろにいる絵理子さんの気配に気付いたからだ。僕はただ大人しく誤ってその場を切り抜けた。受話器を置いた瞬間僕は「ファック!」と叫ぼうと思ってやめた。

七月、一学期の終業式を翌日に控えたある日、僕は奈保子から手紙をもらった。正確には彼女からではなく、千里さんに渡されたわけだが。

音楽の授業のため音楽室に友人と移動中、僕は筆箱を忘れた事に気が付き、一人で教室まで戻った。渡り廊下を走って教室へ向かう途中、曲がり角から千里さんが飛び出してきた。「これ奈保子から!」と言って差し出された手紙を、僕は訳も分からず受け取りそのまま走り去った。僕はその手紙をカバンの中にしまい、急いで音楽室へと戻った。徐々に事態を把握した僕は、嬉しすぎてそれからの授業の内容なんて全く頭に入らなかった。

掃除の時間の前に千里さんが僕のところへ「もう読んだ?」と聞きにやってきた。家でゆっくり読もうと思って、と言うと、「すぐ読んで」と言って走って七組へ戻っていった。僕はちょうどその時期体育館周りの掃除担当だったので、誰もいない体育館裏で手紙を読むことにした。

手紙は二枚、大きい手紙と小さい手紙があった。小さい方の手紙には「こっちを先に読む」と書かれていて、中には「絶対誰にも見せないこと!」とあった。大きい方の手紙には、まだ僕の事が好きだと書かれていた。

「久しぶりにお手紙書いてみました。びっくりした?

突然だけど、私はまだアユム君の事が好きです。私から別れようって言ったのに、自分勝手だよね。あの時は中学に入ったばかりで全然話す機会もなくて、振られるのが怖かったんだ。

この前告白してくれた時は本当に嬉しかったし、すごく悩んだ。でもアユム君にはもっといい人がいると思って、他に好きな人がいるって嘘つきました。ごめんね。だけどやっぱり諦められなくて、未練ばっかり残っちゃった。

バレー部の友達にもいっぱい相談にのってもらって、後悔だけはしたくないと思って告白することにしました。

迷惑だったらごめんなさい。お返事待ってます」

教室に戻って千里さんに、手紙を読んだと伝えると、今日中に返事が欲しいと言われた。「突然言われても困るよ。明日書いてくるから」と伝えると、彼女は渋々帰って行った。

部活の間も下校中も、彼女のことで頭がいっぱいだった。急いで夕飯を食べて風呂に入ってから、自分の部屋で彼女の手紙を何度も何度も読み返した。僕は返事の手紙を書こうと思って机に向かったが、彼女への気持ちは僕の中から際限なく溢れ出た。そんな彼女への思いをたった数枚の紙にまとめるなんて僕にはできなかった。翌日の昼休み、返事を受け取りに来た千里さんに「僕も奈保子のことが好きだ」とだけ書いた小さな手紙を渡した。

翌日から学校は夏休みに入った。とはいえ毎日のように部活があるため、奈保子とは顔を合わせることが出来た。バスケ部の練習が長引くと、奈保子は友達と一緒に僕が出てくるのを待っていてくれた。部活を終えた帰り際、彼女は恥ずかしそうに駆け寄ってきて手紙をくれた。バスケ部のヤジや冷かしなんて全く耳に入らなかった。僕は心から幸せだったし、幸せすぎて怖くなったくらいだ。彼女と接することで、一年前に凍りついた心が徐々に溶けていくのを感じた。

ある日僕が部活を終えて体育館から出ると、バレー部の数人の女子に取り囲まれた。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、アユム君は奈保子と付き合ってるの?」

僕は彼女と付き合っているという意識はなかった。僕達はまたお互いの好意を認識し合うことが出来たというだけで僕には十分だったため、付き合うとか彼女だとかいうところまで思考が及ばなかったのだ。

僕が質問に対して曖昧な受け答えをすると、彼女たちはすかさずこう言った。

「じゃあ付き合ってるってことでいいんだよね?あの子は付き合ってると思ってるんだよ。それで、そう言えば付き合おうなんて言ってないし、一人で舞い上がっちゃってただけなのかもって、今更奈保子が不安になりだしてさ」

「奈保子が付き合っていると言うなら付き合ってるんだよ」と僕が言うと、彼女たちは満足そうな顔をして走って行ってしまった。

夏休みを境に、僕の周りではカップルが増えていった。バスケ部のタックとユタカも、夏祭りをきっかけに女子バスケ部の女の子と付き合い始めた。誰もが男女の色恋に興味を示さずにいられない時期だった。僕たち彼女持ちグループは鼻高々にそれぞれの交際秘話を語り、彼女のいない連中は食い入るようにその話を聞いた。中にはローリーのように「彼女なんて作らねえ」と強がりを言うへそ曲がりも一定数いた。

僕らの地域の夏休みは異常なほど短かった。七月の下旬から八月中旬までしかなく、お盆が終われば夏休みも一緒に終わってしまう。新学期が始まり、奈保子とは毎日顔を合わせ、手紙を交換することができるようになった。彼女は手紙と一緒に親指ほどのキューピーのキーホルダーをくれた。

キューピーの人形は背中に羽が生えており、両手で愛おしそうに小さなハートを抱えていた。キーホルダーはお揃いで、彼女が赤いハート、僕が白いハートだった。僕はそのキーホルダーを買ったばかりのポーターのスクールバックに付け、毎日持ち歩いた。

夏休みが終わっても花火大会はいくつか残っていた。放課後に僕が部活のため体育館へ向かっていると、バレー部の女子に取り囲まれた。

「八幡のお祭に奈保子を誘った?」

僕はしばらく質問の意味を理解できなかった。夏祭りに奈保子とふたりで行くなんていう発想が考えつかなかったのだ。

「いつもバスケ部のやつと一緒に行ってるんだから、最後の祭りくらい二人でいきなよ。絶対ね!」そう言って去っていった。

夏祭りにはバスケ部の連中と行くのが恒例だった。祭りが終わってからメンバーの中の誰かの家に泊まりに行って、朝まで話をしたりゲームをしたりするのだ。タックとユタカに彼女ができたこともあり、明日の祭りは女子バスケ部と一緒に行くということになっていたし、祭りの後は僕の家に泊まりに来ることになっていた。

僕がそのことをユタカに話すと、「前から一緒に行くって約束じゃん。女バレの言うことなんてほっとけよ」と、軽くあしらわれた。

僕は悩んだ。僕としてはみんなで祭りに行ってから家に泊まりに来ることをとても楽しみにしていたし、バスケ部の奴らは女バスの言うことは聞くなという。しかし奈保子と二人で花火大会に行けるなんてことは夢にも思ってなかったし、奈保子の彼氏としてここで一言彼女に声をかけない訳にはいかない。やはりお祭りには彼女と2人で行こう。少し早めに彼女と別れてからバスケ部の連中と合流すればいい。

部活が終わってからやいやい騒ぐバスケ部の奴らを振り切り、帰り際の彼女を呼び止め、「明日のお祭り、良かったら一緒にいかない?」と誘ってみた。

「バスケ部の人達はいいの?」

「いつも一緒に行ってるから、最後の夏祭りくらい二人で行こうよ」

「ありがとう。じゃあ私たち今宮のお祭りに行かない?明日今宮でも花火大会があるみたいなんだ。あっちの方が知り合いも少ないと思うし」そう言うと、僕の後ろから奈保子を呼ぶバレー部の声が聞こえ、じゃあねと言って走って行ってしまった。

今宮? そんな話は聞いてない!

僕は混乱した。少ない時間で必死で練り上げた計画は、実行に移す前に早くも破綻してしまった。これじゃあいつらと合流できない。だいたいそんなに遠くの祭りに行ったら僕は彼女を家まで送り届けなきゃならない。

家に帰って最善の策はないかとあれこれ考えたが、やはり彼女に正直に話してしまうのが一番だと思った。明日の夜までに彼女に連絡して、改めて計画を練ろう。

翌日の午後、彼女から電話があった。

「今日のお祭りだけど、バスケ部の人達に行くなって言われてるんでしょ?私あんまり色々言われたくないから、やっぱりまた今度にしよ」

少し残念だったが、僕はほっとした。計画は当初のものに戻り、祭りは予定通り楽しい思い出となった。祭りの後、女子バスケ部と別れ男だけになった所で、ユタカが僕にこんなことを言った。

「お前一年のころ、静香さんのことかわいいって言ってたよな? 今日一緒に話してみてどうだった?」

「ああ、かわいかったね」と、僕は何の気なしにそう言った。今思えばこの発言のおかげで、僕は女の子という生き物に執拗に咎められることとなった。

数日後、奈保子から短い手紙をもらった。手紙にはこう書かれていた。

「この前のお祭りのことだけど、あの人とは本当に何もないから気にしないで!ごめんね!」

僕は何度もその手紙を読み返してみたが、手掛かりになりそうなことは何も書かれていなかった。僕には意味がさっぱりわからなかったので、彼女の友人に手紙の内容について聞いてみた。その質問についての奈保子の返答は、「忘れたならもういい」というものだった。放課後の部活前、僕は体育館の前で慌ただしくボールを運ぶ彼女の友人を捕まえ、手紙の内容についての詳しい説明を求めた。

「え?本当にわからないの?あのお祭りの時奈保子と七組のトオル君が一緒に話してるのをあんたが目撃して、怒ってトオル君を呼びつけてどういうつもりだって問い詰めたそうじゃない」

「いったい何の話だ?トオル君と彼女が二人でいるところなんて見てないし、見たとしてもトオル君を呼びつける度胸なんてないよ」

やはり誤解しているのは彼女の方だった。数ヵ月前にも、僕が話したこともない四組の女子と付き合っているという噂を彼女が確かめに来たことがあった。一体誰が何の目的でそんな意味のない噂を立て、彼女たちはどこでそんな根も葉もない噂を耳にするのか、僕には不思議で仕方なかった。

彼女たちは僕とは全く別の世界で生きていて、そこに生きるもう一人の僕の好き勝手な立ち振舞いに頭を悩ませているように思えた。

奈保子と再び付き合い始めて、もう二ヶ月が経とうとしていた。僕は奈保子を近くに感じることのできる日常が戻って来てくれたことに心から幸せを感じていた。そんな平和な日々に、僕は僅かな違和感を覚えるようになった。はじめは気のせいだと思って見ないふりをした。でもその違和感は僕を捉えて離さず、日増しに大きくなっていった。僕の奈保子に対する想いが、徐々に色あせているように感じたのだ。中学校に入学してから一年以上、僕は彼女への届くことのない想いを、絶え間なく大切に育み続けてきた。奈保子が僕の彼女になってしまってから、その安堵感によって彼女への想いが損なわれてしまったような気がした。

もちろん僕は彼女のことが好きだったし、もう二度と失いたくないと思った。それでも僕は、彼女のことだけを思い続けたあの日々の溢れんばかりの感情を、心のどこかで求めていた。

秋が深まり、登校する女の子たちが制服の上にカーディガンを羽織るようになるころ、僕は念願の携帯電話を手に入れた。一日に一度の手紙のやりとりがEメールに変わり、僕らの距離はどんどん近づいているように思えた。

そんなある日、僕は彼女の友人二人に呼び出された。一人は千里さんで、もう一人は僕と同じクラスでバレー部の由子さんだった。

「あの、ちょっと言いづらいんだけど、奈保子がね、今は部活が忙しくて全然会えないし話もできないから、部活が終わるまで一回別れよって言ってて。そもそも付き合おって言ってくれたわけじゃないし、別れようってゆうのもなんか変だけど。部活引退したらまた奈保子の方から告白するからそれまで待っててって」との事だった。

奈保子が僕の事を好きでいてくれるなら、僕は別に付き合っていようがいまいがどっちでもよかった。むしろほっとしたくらいだ。

彼女と寄りを戻してもう三ヶ月ほど経ったが、僕は一度も彼女を誘うことができずにいた。中学生の僕には、彼女をデートに誘ったところでどこへ行って何をすればいいのかが分からなかった。昔のように公園へ行って話をする訳にもいかないし、中学生で込み合うゲームセンターなんかにわざわざ好きな人と行きたくはなかった。とりあえずではあるが彼女との関係が一度切れることで、そんなプレッシャーから逃れられることができた。

その夜奈保子から「一方的にごめんね。部活が終わるまで待ってて。そもそも付き合うってゆうのが私には何なのか良くわからないけど」というメールをもらった。

付き合うって一体なんだろう? 僕もそう思った。しかし当時の僕は、その質問についての答えを見出せるほどの思考は持ち合わせていなかった。

それとほぼ時を同じくして、僕の周りではまたしても謂れのない噂が流れ始めた。僕が女子バスケ部の静香さんのことを好いているというものだ。

心当たりがないわけではなかった。噂を聞きつけてすぐに僕はユタカを捕まえ、「お前彼女に俺が静香さんのこと好きだとか言った?」と問い詰めた。

「好きだなんて言ってないよ。だってお前には彼女がいるじゃん。アユムが静香さんのこと可愛いって言ってたよってちょっと言っただけだよ」そう言ってから、僕に一枚の手紙を見せてくれた。ユタカの彼女である明菜と女子バスケ部の誰かがやり取りした手紙のようで、こんなことが書かれていた。

「この前静香と話したんだけど、静香はもうアユム君のことが大好きみたいだよ。『アユム君はナオコちゃんのことが好きなのか私のことが好きなのかわかんな~い』って言ってたよ~」

僕はユタカに、彼女たちの誤解を解くように頼んだ。僕は好きだとか気になってるなんて言った覚えは全くない。ただ可愛いと言っただけだ。勝手な想像はやめてくれ。

ユタカはその日の内に彼女にそのことを伝えてくれたから、僕は噂がこれ以上おかしな形で広がることはないだろうと思った。

しかし明菜はユタカから真相を聞くと、それは静香が聞いたらショックだから本人には黙っておいたほうがいいと言って、静香さんに伝えることを避けた。同時に僕は女たらしであるという話が女子バスケ部内で囁かれるようになった。

僕はユタカに抗議した。そんなことを言われる筋合いはない!静香さんを傷つけることになったのはお前らの勝手な推測のせいだ!

彼女たちの言い分は違った。そもそもその気もないのに可愛いなんて言う方が悪いというのだ。

僕は呆れた。自分たちの事は棚に上げてよくそんなものが言えたもんだと。

その日以来僕は自分の発言に細心の注意を払うようになった。誰に誘導されても「可愛い」なんて事は絶対に口にしなかった。これじゃまるで営業妨害だと僕は思った。頑なに「可愛い」という言葉を口にしない僕は、身の程知らずの面食い野郎という印象を相手に与えるのではないかと思ったからだ。

事態はそれだけでは収まらなかった。その噂を聞きつけた奈保子から「あの、キューピーのキーホルダー返してもらえますか? 他に好きな人がいるのにそういうのいつまでも付けてるの、その子に失礼だと思います」と書かれた手紙を渡されたのだ。

僕はその日のうちに「他に好きな人なんていないから、奈保子の言うその子にも失礼じゃないと思う。だから返したくない」と書いた手紙を由子さんに渡した。奈保子に手紙を渡して来てくれた由子さんが「奈保子すごく喜んでたよ」と言ってくれた。しかし、それでもキーホルダーを返してくれと彼女が言うので、僕は半分やけになって返してしまった。

今ならわかる。あれは絶対に、何があっても返してはいけなかった。女の子の「返して」が時として「返さないで」であることを、僕は当時まだ知りもしなかった。

僕が静香さんのことを好いているという噂はまだ生きていた。ある日ユタカから「静香さんがお前と遊びたがってるから、今度の日曜に一緒に映画を見に行かないか?」という誘いを受けた。僕はこれ以上事態が複雑になるのを避けるため一度は断ったが、ユタカはなかなか引かなかった。その日の食事代と映画代を全てユタカが支払うということを条件に僕は渋々承諾した。

約束の日、ユタカと二人で待ち合わせ場所の近くの本屋で時間を潰していると、偶然奈保子を見つけてしまった。普段はどんなに探してもいないのに、どうしてこんな日に限って彼女と遭遇してしまうんだろう?  僕は自分の運の悪さを呪った。僕は複雑な気持ちで奈保子に見つからないように本屋を出て、明菜と静香さんと四人で映画を見に行った。その日は結局、静香さんとは一言も話さなかった。

翌週、由子さんが僕の所へやってきて「静香ちゃんといい感じみたいじゃん。付き合っちゃえば?」と言った。「いいの?」と僕が聞くと、何が?といった顔で「いいでしょ」と言った。

奈保子への気持ちに波があった事は事実だが、僕はまだ奈保子のことが好きだったし、部活を引退するまで待っていて欲しいという彼女の言葉を信じていた。静香さんに気持ちが流れたことなんて一度もない。それなのに、あの時奈保子の「待っていて」という言葉を伝えに来た張本人が、どうしてそんな意地悪な事を聞くのか僕にはさっぱり分からなかった。

僕はそのことがきっかけでまた出口のない悩みの中に迷い込むことになった。奈保子とのメールはあの日を最後に途絶えていた。

もしかして、俺普通に振られたんじゃね? そう思うと、今まで彼女の言葉を信じていたことが馬鹿らしくなった。彼女たちの手の内で踊らされていたと思うと僕は急に悔しくなって、なんだかもうどうでもよくなってしまった。

「やっぱり、俺もう静香さんでいくわ」そうユタカに伝えると、喜んで応援してくれた。クリスマスには女子バスケ部と男子バスケ部で映画を見に行った。映画館で僕は静香さんの隣の席に座ったが、映画が面白くて彼女が隣にいることなんてほとんど気にもしなかった。

年が明け、冬が終わろうとしていた。ユタカと明菜の間には喧嘩が多くなった。僕はタックと二人でユタカを宥め、明菜を励ました。それでも春休みのある時、二人の関係は限界を迎え別れることとなった。明菜は泣いてタックのところに電話をかけてきて、僕とタックは二人で彼女を慰めた。

僕と静香さんの間には結局なにもなかった。あとひと押しすれば二人の関係が動き出すことを分かっていながら僕は何もしなかった。静香さんの事を好きになることができなかったからだ。彼女は確かにかわいかったし、僕の好みでもあった。しかし、数か月前まで僕が抱いていた奈保子への想いと比べれば、静香さんへの気持ちは取るに足らない下心のように思えた。

ユタカが別れた事をきっかけに、僕は明菜とメールをするようになった。始めのうち、僕は内通者としてユタカの近況を明菜に伝え、二人でどうすれば寄りを戻せるかを考えていた。

そんな風にして僕は中学三年生になった。

おわり

Next

Previous

記事の内容が気に入りましたらポチッとしていただけると励みになります。

ブログランキング・にほんブログ村へ

虚構
スポンサーリンク
シェアする
この記事を書いた人

平成生まれのアラウンド・サーティーです。30歳を迎えるにあたって何かを変えなければという焦りからブログをはじめました。このブログを通じてこれまでの経験や学びを整理し、自己理解を深めたいと思っています。お気軽にコメントいただけますと励みになります。どうぞよろしくお願いいたします。

免色 歩をフォローする
明日、雨が止んだら、出かけよう
タイトルとURLをコピーしました