決算
SSミーティング。モニターを見ながらヒアリングの内容を検討する。解ることが増えて、自分が役に立っていることを実感する。大きな組織の中で大きな数字を扱い、影響力のある情報を作るための一部として、自分が機能しているという実感。私はこの仕事を「楽しい」と感じた。
時刻は12:00を周り、皆疲労の色が見え始めたころだ。Oさんが相手先別取引表の比較Excelをつくってくれて、私はそれをベルギーとスペインとアメリカの担当者に送付する。
「Please find the attached and answer the questions.
Best regards.」
一段落して皆で雑談を始める。この時間帯の雑談はなぜか盛り上がる。疲労がピークに達して、頭のねじがゆるみ、普段は言えないような言葉が口から自然とこぼれ落ちる。我々はそんな状況をランナーズハイならぬ「決算ハイ」と呼んだ。
ミーティングを終えて自席に戻る。Mさんが言う。「もう誰になんて思われてもいいから逃げ出したい気分だ」気持ちは解る。「決算をやればやるほど楽しくなる能力を持って生まれたかったですね(笑)」
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人生は耐久レースだ。レースが終わったときに、最も多く周回を重ねた者が勝者となる。スタートは皆同じだったはずなのに、ほんの少しの差が積み重なって、最終的には大きな差になる。
突然のトラブルに見舞われることもある。原因不明のマシントラブル、天候による一時中断、他者のクラッシュによる巻き込み事故。運と実力、絶え間ない集中力と事前の危機管理が勝敗を大きく左右する。
なによりも大切なのは、完走すること。マシンを無事にピットまで届けること。そのためには攻めすぎてもいけないし、抜き過ぎてもいけない。攻めるべきポイントで攻めて、集中力を保ちながら抜くべきポイントで抜く。
周回遅れ毎の差は微々たるものかもしれない。しかしその蓄積が、いつかは大きな差となって見えてくる。自分の速度で、一定の速度で、走りつづけること。決して走ることをやめないことが、勝つための秘訣だ。
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主計に来てからもう三年が経とうとしている。三年で何が変わった? たぶん私は成長したのだと思う。
四年前、会計士試験に落ち、1ヶ月の放浪を経た後の就職活動で、この世界的大企業の子会社に運良く拾われた。一週間程度の簡単な研修の後、委託常駐者としてここへの侵入を許された。
技術資料館、本社工場、本社会館の展示物を見学し、本社の従業員入り口で先輩社員の迎えを待った。
続く
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