東京奇譚集
発行日 2005年9月16日
発行元 新潮社
1.偶然の旅人
「もし今、トミー・フラナガンに二曲リクエストする権利が自分に与えられたとしたら、どんな曲を選ぶだろう?」と。しばらく思い巡らせた末に、選ばれたのは『バルバドス』と『スター・クロスト・ラヴァーズ』の二曲だった。
偶然の旅人
トミー・フラナガン『バルバドス』
トミー・フラナガン『スター・クロスト・ラヴァーズ』
その日はペパー・アダムズの『10 to 4 at the 5 Spot』というリヴァーサイドの古いLPレコードを見つけた。トランペットのドナルド・バードを含むペパー・アダムズのホットなクインテットが、ニューヨークのジャズ・クラブ「ファイブ・スポット」に出演した時のライブ盤である。
偶然の旅人
ペパー・アダムズ『10 to 4 at the 5 Spot』
僕もプーランクの音楽は昔から好きだ。だから彼がうちの古いピアノを調律に来たときには、仕事が終わったあとで、プーランクの小品を何曲か演奏してもらうことがある。『フランス組曲』とか『パストラル』とか。
偶然の旅人
プーランク『フランス組曲』
プーランク『パストラル』
その火曜日の朝、彼はいつものように書店のカフェで本を読んでいた。チャールズ・ディッケンズの『荒涼館』。
偶然の旅人
チャールズ・ディッケンズ『荒涼館』
彼女の車(ブルーのプジョー306、オートマチック)で二人はその店に食事に行って、クレソンのサラダと、スズキのグリルを注文した。
偶然の旅人
プジョー306
2.ハナレイ・ベイ
「これ、なんていう車ですか?」と長身が長い脚を苦労して折りたたみながら尋ねた。
偶然の旅人
「ダッジ・ネオン。クライスラーが作ってる」とサチは言った。
ダッジ・ネオン
教師はまた、レコードを何枚か貸してくれた。レッド・ガーランド、ビル・エヴァンス、ウィントン・ケリー。彼女は彼らの演奏を繰り返し聴いて、そっくりコピーした。
ハナレイ・ベイ
レッド・ガーランド
ウィントン・ケリー
「なんかピアノ弾いてくれよ。景気のいいやつ。ボビー・ダーリンの『ビヨンド・ザ・シー』知ってるか? 歌いたいんだ」
ハナレイ・ベイ
ボビー・ダーリンの『ビヨンド・ザ・シー』
3.どこであれそれが見つかりそうな場所で
そして回想するように目を閉じた。アルフレッド・ヒッチコックの映画なら、画面がぐらりと揺れてここから回想シーンが始まるところだ。
どこであれそれが見つかりそうな場所で
アルフレッド・ヒッチコック
4.日々移動する腎臓のかたちをした石
「ここで音楽を一曲かけます。ジェームズ・テイラーの歌う『アップ・オン・ザ・ルーフ』」とアナウンサーが言った。「綱渡りのお話の続きは、そのあとでまた」
日々移動する腎臓のかたちをした石
ジェームズ・テイラー『アップ・オン・ザ・ルーフ』
5.品川猿
「オデッセイ」の、とてもミニヴァンとは思えないハンドリングのシャープさを熱心に説くこともできる。
品川猿
オデッセイ
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